研究成果

FEBS Letters 誌に野﨑助教等の研究成果が掲載されました

野﨑翔平助教らの研究チームは、植物ホルモンによる遺伝子制御の複雑な仕組みについて、新たな知見をFEBS Letters 誌に発表しました。

植物は成長や環境応答の過程で、多数の遺伝子を精緻に制御しており、その中心的役割を担うのが「転写因子」と呼ばれるタンパク質です。転写因子はDNA上の特定配列に結合し、遺伝子発現を促進または抑制する“スイッチ”として機能します。なかでもBIL1/BZR1は、植物ホルモン・ブラシノステロイドのシグナルを受け、成長促進と抑制の両方を担う重要な転写因子です。近年、この因子は光や温度シグナルを統合する転写因子PIF4と協調的に作用する可能性が示され、さらに細胞内の酸化還元状態変化によって活性が高まることも報告されてきました。

本研究では、BIL1/BZR1のDNA結合ドメインが酸化還元状態によって構造変化し、それに伴いDNA結合能が大きく変動することを初めて明らかにしました。一方で、従来重視されてきた単一のDNA配列要素では酸化状態の異なるBIL1/BZR1を十分に呼び込めないこと、加えてPIF4とは少なくともDNA結合ドメインレベルで直接的な結合協調が成立せず、1対1のペア(ヘテロ二量体)も形成しない可能性が極めて高いことを示しました。これらの成果は、生化学的DNA結合活性測定、X線結晶構造解析、そして最新の構造予測AI(AlphaFold)による解析を組み合わせて得られたものです。

本研究で得られた知見は、ブラシノステロイド応答における遺伝子制御が、DNA配列認識や酸化還元変化のみでは説明できない、多層的かつ協調的な仕組みに基づくことを示唆します。遺伝子応答は単一の転写因子とDNAの結合の有無だけで決まるものではなく、複数の転写因子が相互に干渉し合い、状況に応じてON/OFFや発現強度が決定されます。本成果は、こうした新たな協調的メカニズムの理解に向けた重要な一歩となるでしょう。

研究代表者
筑波大学生命環境系
野﨑 翔平 助教

【題 名】AtGolS2
Single cis-elements in brassinosteroid-induced upregulated genes are insufficient to recruit both redox states of the BIL1/BZR1 DNA-binding domain
(ブラシノステロイド応答性遺伝子の単一cis配列は、BIL1/BZR1 DNA結合ドメインの酸化還元両状態を十分に呼び込むことができない)

【著者名】  Nosaki S, Ohtsuka M, Nakano T, Tanokura M, Miyakawa T
【掲載誌】  FEBS Letters
【掲載日】  2025年8月29日
【DOI】   10.1002/1873-3468.70147

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