トマトの果実の食味は、甘味としての糖や酸味としての有機酸に加え、種々の香気成分によって形作られます。例えば、果実の赤色や黄色を構成する色素のカロテノイドが分解されて発生する香気成分のアポカロテノイドは、甘味の知覚を強めるとされています。しかし、さまざまな色を持つトマト品種において、その色の違いが食味に与える影響は明らかにされていませんでした。
本研究ではまず、多種多様なトマト品種の果実に含まれる色素のうち、緑色色素で光合成に重要なクロロフィルとカロテノイドを簡便で迅速に定量する技術を開発しました。更に、この技術を用いて得た色素の定量データと糖類および香気成分含量データとを統合解析し、トマトの果実の色と食味の関係性を明らかにしました。
157品種の成熟したトマト果実を調べた結果、クロロフィル含量上位10%品種は、果実中の主要な糖類であるグルコースとフルクトースの含有量が下位10%品種に比べて有意に高いことが分かりました。これは、果実中のクロロフィルが何らかの形で果実中の糖蓄積に寄与する可能性があることを示しています。また、アポカロテノイド香気成分の一つである6-メチル-5-ヘプテン-2-オン(MHO)の含有量が高い2品種では、その前駆体でカロテノイドの一種であるリコペンがほとんど存在しないことが分かりました。更なる解析で、これらの品種にはリコペンの代わりにプロリコペンという別のカロテノイドが存在し、これがMHOの前駆体として機能している可能性が示唆されました。
これらの成果は、未解明な点が多いトマト果実中の食味に関わる化合物の代謝制御メカニズムの理解に貢献すると考えられます。
プレスリリース
生命環境系 草野都教授