マメ科植物は窒素栄養の乏しい土壌でも生育できます。根に根粒と呼ばれる器官を形成して根粒菌と共生し、根粒菌が固定した大気中の窒素を利用できるからです。根粒共生と呼ばれる現象ですが、共生を成立させるために植物は、光合成産物を根粒菌に供給する必要があります。そこで植物は、硝酸など窒素栄養が豊富な土壌では窒素栄養を直接得る戦略に切り替え、根粒共生に伴う不必要なエネルギーの消費を防いでいます。しかし、この仕組みの大部分はいまだに未解明のままでした。
本学生命環境系壽崎拓哉准教授の研究グループは、マメ科のモデル植物ミヤコグサを用いた研究で、特定のDNA配列と結合して遺伝子の発現を調節する二つのタンパク質(NLP転写因子)NRSYM1とNRSYM2が、硝酸の濃度に応じて遺伝子の発現を制御する主要な因子であることを明らかにしました。
また、根粒を作る働きを持つNINと呼ばれる転写因子の標的遺伝子の発現の多くは、NRSYM1転写因子とNRSYM2転写因子の働きによって抑制されることを突き止めました。さらに、硝酸が豊富な条件下では、NRSYM1転写因子がNIN転写因子と相互作用をすることで、NIN転写因子の標的遺伝子の発現が抑制される可能性も新たに示唆されました。
これらの発見により、転写因子を介した植物の遺伝子発現制御の基本的な仕組みの理解が深まるとともに、「窒素栄養が豊富な環境で植物はどのようにして根粒共生をやめるのか」という問いに答える重要な基礎的知見を提供することができました。
本研究成果は、根粒共生の進化基盤の解明や、大豆に代表されるマメ科作物の効率的な肥料管理など、持続可能な農業の実現に貢献することが期待されます。
プレスリリース
生命環境系 壽崎拓哉准教授