トマト(Solanum lycopersicum)は、世界中で重要な果菜類の一つです。日本で栽培されている主要野菜品目においてもトマトは最も産出額が高く、経済的にも重要な農作物となっています。トマトは品種によって独特の食感や香りなどの「風味」を持つことが知られています。しかし、現在流通しているトマト品種の多くは収量増加に着目して育種選抜されており、収量と引き換えにトマトが持つ「風味」を失っています。そこで、トマトの新たな付加価値として「風味」の向上を目指した研究が世界中で行われています。
香り成分は揮発性有機化合物(volatile organic compound, VOC)の一種であり、香り成分は遊離型VOCとして存在します。植物は遊離型VOCに加えてVOCに糖が結合した配糖体由来VOCを生産します。この化合物は非揮発性ですが、必要に応じて糖が切り離され、配糖体由来VOCとして大気中に放出されます。先祖代々受け継がれてきた伝統的な固定系統トマト品種(エアルーム品種)はよい香りを持つものが多いことから、これらの品種がどのように香り成分を生産するかを知ることはとても重要です。
T-PIRC草野都教授、日本大学上吉原裕亮准教授、フロリダ大学Harry Klee教授らの研究グループは、9エアルーム品種を含む合計13品種のトマトを同一圃場で3年間栽培しました。栽培環境やトマト品種の違いによって、遊離型および配糖体由来VOCがどのような影響を受けるのかを調べるために、収穫したトマト果実について、非ターゲットVOCプロファイリングを行いました。その結果、遊離型VOCはすべての品種で3年間における総蓄積量が比較的一定なのに対し、配糖体由来VOCについては、エアルーム品種‘Livingstone’s stone’の総蓄積量が2020年に突出して高蓄積していることが明らかになりました。2020年から2022年の気象データを参照したところ、収穫の時期にあたる7月の日照時間が、2020年では他の年を比べて約40%低かったことから、2020年における‘Livingstone’s stone’が生産する配糖体由来VOCの高蓄積は日照時間の低下と関連している可能性を見いだしました。
露地栽培など、外部環境で生育したトマトの品質は、厳密に制御された生育環境とは異なり、天候に左右されることが知られています。本研究は、栽培環境と品種の組み合わせが、「風味」の重要な要素の一つである香り成分の生産性を決める重要な要素の一つとなることを示した研究です。今後は、育種材料となる品種に最適化した栽培条件を用いて栽培したトマト果実に対し、本研究で開発した非ターゲットVOCプロファイリングを行うことで、トマトの香り成分生産向上に関わる生合成経路の解明や香りのよいトマト品種の育種開発に新たな糸口を与えることが期待できます。
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揭載論文
【題名】 Effect of climate conditions on the free and glycoside-derived volatile compounds in. tomato cultivars
(トマト品種における遊離揮発性化合物および配糖体由来揮発性化合物に対する気候条件の影響)
【著者名】Y. Li1, Y. Kamiyoshihara2, Y. Asikin3,4, D. Tieman5, H. Klee5 and M. Kusano 6,7,8,*
【所属】 1Degree Programs in Life and Earth Sciences, University of Tsukuba,Tsukuba 305-8572, Japan
2College of Bioresource Sciences, Nihon University, Fujisawa 252-0880, Japan
3Department of Bioscience and Biotechnology, Faculty of Agriculture, University of the Ryukyus, Nishihara 903-0213, Japan
4United Graduate School of Agricultural Sciences, Kagoshima University, Kagoshima 890-0065, Japan 5Department of Horticultural Sciences, University of Florida, Gainesville FL 32611, USA
6Faculty of life and environment science, University of Tsukuba, Tsukuba 305-8572, Japan
7Tsukuba-Plant Innovation Research Center, University of Tsukuba, Tsukuba 305-8572, Ibaraki, Japan8RIKEN Center for Sustainable Resource Science, Kanagawa 230-0045, Japan
【揭載志】Plant Biotechnology
【揭載日】2025年12月22日
【DOI】 10.5511/plantbiotechnology.25.0717a

